
サイエンス教育に力を入れる三田国際科学学園中学校・高等学校は、生徒たちが思考を深める学習施設「Zero to One」(以下、ゼロワン)を設立しました。
本記事では、同校のサイエンス教育責任者であり、ゼロワンの企画と運営に深く携わっている辻敏之先生に活用の現状と課題、今後の展望についてお聞きしました。
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目次
新たな使い方に挑戦し、日々の授業の学び方を多様にする
――具体的にはどのように活用しているのでしょうか?
辻先生:どの科目の授業でもゼロワンを活用しています。理科の授業で講義は教室で受けるけれど、実験は理科室で行うように、すべての科目で学習内容に応じてゼロワンで授業を行っているのです。
1階の工作室は、中学2年から3年の全クラスで行うゼミナール形式の授業で多く使われています。生徒たちは、文学からコンピュータサイエンス、自然科学まで、さまざまな領域から自分の研究テーマを決めます。例えば、戦国時代の歴史を研究している生徒たちは、武将の家紋をモチーフに将棋のコマをデザインして、3Dプリンターで実際に制作しました。
また、風力を研究している生徒たちは、微妙に角度を変えた風車を3Dプリンターで何種類も作って、最寄りの用賀駅の協力を得て、電車が出入りする際の風力を計測する実験などもしています。

辻先生:工作室は、キャンパスの裏口の目の前にあり、大きなシャッターを設けたので、ワゴン車もバックで入れられます。ドローンの研究をしている生徒たちは、担当の教員がワゴン車をバックで入れて3Dプリンターなどの機材を積み込んで、福島県の「福島ロボットテストフィールド」で合宿をしています。また、学園祭で使う大きな制作物を分解せずに設置場所へ運び出すこともできるようになりました。
福島ロボットテストフィールドとは
福島イノベーション・コースト構想に基づき整備され、無人航空機、災害対応ロボット、水中探査ロボットといった陸・海・空のフィールドロボットの一大開発実証拠点となっています。▽詳細はこちらから(外部サイトへ遷移します)
https://rtf.f-rei.go.jp/


辻先生:2階は、ディスカッションとプレゼンテーションが中心です。廊下と隔てる間仕切りを開ければ広い空間になるので、小ホールのように大人数での発表も可能です。

辻先生:シンガポールへの修学旅行では現地で研究成果の発表を行うので、その事前の練習にもよく活用されています。また、生徒同士、教員と生徒がこの空間でじっくり話している様子も見られます。さまざまなコミュニケーションを取る場として活用されていますね。
3階はいわゆる講義室と静かな部屋と2つありますが、間を隔てる間仕切りを開けて全フロアを使った授業も可能です。
たとえば、生徒それぞれの進捗に合わせて学習する場合は、自分で考えて進められる生徒は閉め切られた空間で集中し、真ん中のあたりでは生徒同士が教え合い、反対側では教員に質問をする生徒がいる。ひとつのフロアで学び方の分布をつくって、生徒ごとの個別最適化を図ることができます。英語の授業では、iPadを使って正しい発音をアプリで確認するのですが、吸音性能の高い空間もあるので、複数の生徒がいても、自分の音声を認識させることができます。

辻先生:教員には、どんどん挑戦してもらえるよう、どんな使い方もまずはトライしてもらっています。実際、使ってもらって、「ゼロワンでグループワークをやったら、いい議論ができたのでグループワークを増やしてみよう」など、授業の内容を変える事例も生まれています。
本校が掲げる、「問いを立て、分析・考察し、表現する」という学びのサイクルとも親和性が高く、日頃の教育活動との相乗効果が生まれていると感じています。
生徒たちが広げるゼロワンの可能性
――運用をしながら、どのような発見がありましたか?
辻先生:今の生徒たちはパソコンや3Dプリンターにしても、大人よりも早く使いこなしていきます。「動画サイトで見たのでこういう実験をやってみていいですか」「隣のクラスでこんな取り組みをしているので、うちのクラスでもやってみたいです」と生徒の側から提案があり、様々な使い方がどんどん広がっています。
本校には本格的な実験ができるラボが3室ありますが、あくまで理科室の延長線上のものです。例えば、ラボで歴史の議論をする生徒はいません。別にやってもいいけれど、ラボでは歴史の議論をしないという思い込みがあるからです。でも、ゼロワンでは歴史の議論も自然にできる。より普遍的なサイエンスを学ぶ場として、生徒たちにフラットなかたちで受け入れられていると感じています。

辻先生:学園祭では、生徒たちの研究発表やポスターセッションを行うとともに、ゼロワンに関心のある方々向けに説明ツアーを行い、受験生と保護者も数多く参加していただきました。保護者、とりわけお父さん方からは「うらやましい施設。自分がここで学びたい」というご意見をいただきました。そういった反応からも、サイエンス教育に力を入れる本校のアイコン的な存在になったと思います。
――現状の課題は何でしょうか?
辻先生:ゼロワンは現在、授業で使いつつ、一部の課外活動でも活用していますが、生徒に完全に開放はしていません。開設からようやく1年で、今は活用のノウハウを貯めているところです。
まだ目新しい存在だからこそ、今はトラブルが起きないようにしなくてはいけません。学校は安全面が第一です。不安要素を一つひとつクリアしながら、どこを落とし所にしていくか、折衷案をどうするか、線引きをじっくりと決めていきます。その線引きも、杓子定規にならず、本校ならではであれば、なおよいと思いますね。
学校に新しい施設を作ることは、文化を醸成するのに役立つと思います。2015年に校名が変わり、共学になり、新しい校風も育まれていきました。120年以上の歴史と伝統は脈々と続いていますが、その上に新たな文化も芽生えています。その文化を象徴する施設ができて、そこを継承しながら、また新たな文化が生まれていく。変わり続けていくことこそが本校の伝統であると感じています。

生徒と教員と建物の相互作用から新しい価値が生まれる
――今後、どのような施設として育んでいくのでしょうか?
辻先生:ゼロワンそのものが教材になればいいと思います。コンセプトを決め、さまざまな機能や工夫を凝らしましたが、生徒たちには目的や理由は説明していません。生徒たちが、「2階のイスやソファーがカラフルなのはなぜ?」「あれ、3階のここって静かだな」と気づいてくれれば大成功です。気づかなくても、きっとじっくりと染み込んでいって、豊かさへとつながってくれればいい。それぞれの居心地のいい場所をみつけて、溜まり場として友だち同士でとりとめのない話をするだけでいいのです。
それと、本校には部室がないので、ゼロワンは先輩後輩の上下関係を育む場所にもなってほしいですね。研究などを通じて、先輩後輩が交流できる可能性はあるので、ゼロワンで先輩に話しかけて、いろいろと聞いてみるとか、舞台装置として交流を演出する場になるとうれしいです。
きっと面白いことが起きていくと思います。だからこそ、できるだけコントロールはしたくありません。教員の都合で管理すると、せっかくの面白いことがなくなってしまいます。生徒と教員と建物が相互作用して、新しい何かが生まれれば、私としては最高にうれしいですね。

まとめ
三田国際科学学園のゼロワンは、学習施設が学校のアイコンになりえることを示す好事例です。印象的なのは、敷地面積の狭さや増築という建築方法など、条件は決して恵まれたものではなかったということです。
それでも、育てたい人材像が明確で実践する教育で何が不足しているかが明確であれば、限られた条件の中でも工夫を凝らし、学習効果の高い空間を実現することは可能なのだと、ゼロワンは教えてくれました。
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