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【日本学園・明大世田谷】「明大世田谷」誕生を機に生まれる創発学のソフト・ハードの進化形とは?【後編】

東京・世田谷区松原にある「日本学園中学校・高等学校」では、2026年4月の明治大学の系列校化と「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」への改称に向けて、母体となる校舎の整備を進めてきました。生徒の収容人数を増やすだけでなく、日本学園独自の「創発学」に基づく、「生徒たちに選択の自由がある学びの空間づくり」について、同校の谷口哲郎校長先生にお聞きしました。

目次

倍増する生徒数に対応するため新校舎建築と旧校舎全面改修を実施

――まず、2026年4月の明治大学付属世田谷中学校・高等学校(以下、明大世田谷)の誕生に向けて、校舎の整備をどのように進められたのでしょうか?

谷口校長:日本学園中学校・高等学校(以下、日本学園)は男子校で、全校生徒数はこれまで中高合わせて500人から600人ほどでした。しかし、2022年の高大連携協定の締結後、生徒数が増え始め、明大世田谷となって共学化がスタートする2026年4月以降は1000人を超える規模となる見込みです。

こういった生徒増加に対応するため、新たな校舎である5号館(地上4階)が2025年7月に竣工しました。加えて、1936年に建てられた築90年の1号館を改修する工事も行われました。特徴的なのは、5号館づくりで得られた学習空間の知見を1号館にも取り入れたことにあります。

国の有形文化財に指定されている1号館(改修前)

食堂・講義室・自習室を兼ねた「ランチ&スタディルーム」

――5号館では、具体的にどのような空間づくりが行われているのですか?

谷口校長:まずは5号館の1階には「ランチ&スタディルーム」を設けました。教室5つ分という広さ(約290㎡)の空間で、昼休みには生徒たちがお昼ご飯を楽しむ食堂の役割を果たします。

正面には165インチの大型スクリーンを設置し、天井から吊り下げ型のモニター(65インチ)も4台設置してあります。170席以上ありますので、明治大学の先生方によるリモート講義をはじめ、大人数での講義を行うことができます。

また、放課後は自習室になります。チューターと呼ばれる学習補助のスタッフを複数名配置し、生徒たちの学習に関する疑問に答えています。今後は、習熟度ごとに学習支援を行う本校独自の自学自習システムを導入し、付属化や共学化に伴って入学が見込まれる学力の高い生徒たちの学習ニーズにも応えられる指導体制を整えていきます。

ランチ&スタディールーム

――食堂と講義室、自習室として柔軟に使えるコンセプトは当初からあったのですか?

谷口校長:いえ、当初は単なる食堂でした(笑)。本校には自習室としては図書館しかなく、これまで、他校に視察に行き自習室を見るたびに、「うちの学校にも自習室があればなぁ」と思っていました。そこで5号館の計画段階で「ランチ&スタディ」というコンセプトを提案し、現在のかたちになりました。

――空間を時間帯で区切って目的を変えて使う手法は、さまざまな学校で応用できますね。

学び合いが生まれる自由空間「ラーニングコモンズ」

――教室の周りにはどのような工夫を凝らしましたか?

谷口校長:普通教室のある2階から4階の各フロアの中央部分には「ラーニングコモンズ」を設けました。放課後、教室内で自習する生徒は基本的に黙って学習をします。でも、ラーニングコモンズでは友達に勉強を教えてもらってもいいし、勉強をせずにくつろいでもいい。教室の中と外でメリハリを付けることができるのです。創発学では、学び合いが大きなテーマですからね。

谷口校長:ラーニングコモンズでお昼ご飯を食べている生徒もよく見かけます。「ランチ&スタディルームや教室内でも食べられるけれど、廊下で食べるとテラスにいるようで気分が変わっていい」という生徒もいました。空間をちょっと用意できれば、あとは生徒たちが自由に利用してくれますね

現在はイスやテーブルの配置もずいぶんとすっきりしていますが、当初はもっとイスが多くて、仕切りを兼ねたホワイトボードも置いてありました。でも、運用しながらイスの数を減らし、ホワイトボードも片付けました。

イスが少ない方が「ここ、使っていいのかな」と自由度が上がる。ボードがあると廊下から目隠しができるけど、逆に見られていた方が勉強がはかどる。そんな生徒たちの意見や様子を参考に運用ルールを変更していったのです。イスやボードが必要であれば持ってくればいいだけですからね。

それと、教室外の廊下には机と椅子を置き、本棚で空間を区切っています。「コミュニケーションスペース」と呼んでいます。ここもしゃべってもいいし、質問してもいい。教室の中では静かに自習をする。メリハリがついているので、生徒は好きな方で過ごせばいいのです。

生徒たちのライフスタイルに寄り添い、「選択できる」空間づくり

――人が自由に出入りできる空間で自主的に勉強が捗るのはなぜですか?

谷口校長:安心感があるからでしょう。「僕もやっているけど、友だちもいる。でも、それぞれでやることをやっていればいい。」そういう空間って居心地がよくて、落ち着ける。人の目を感じながらも、自分は集中する。物音を立てられない静かな空間は、集中には良さそうで実は居心地が悪い時もあります。集中する場所のちょっと外側にある「中間スペース」は居心地がいい。実際に使い始めて、中間スペースの大切さが見えてきましたね。

こういった空間づくりの発想は明治大学の和泉図書館から着想を得ました。図書館は「本を読む場所」と決めてしまいがちです。でも、長く滞在できる空間でなければ、人は本を読みません。集中して本を読んで、疲れたから帰ろうと思った時にくつろげる空間や談話できる空間があれば、気分転換してまた本を読むことができる。和泉図書館は学生が長くいられる空間づくりがされていました。そういった空間をつくりたいという発想が、ラーニングコモンズやランチ&スタディルームにつながりました。

――生徒たちのやりたいことや気分に合わせて利用できる空間をいくつも設けたのですね。

谷口校長:選択できるということが大切です。それが、自由につながります。くつろぎたい時はくつろげる場所があるし、勉強したいときは集中できる空間もある。自分で感じて、判断して、選ぶことができます。

5号館を参考に、改修した1号館でも、各階に生徒がくつろぎ、学べる広い空間を確保して、同じくラーニングコモンズを設けました。さすがに5号館のように廊下を広げることはできませんでしたが(笑)。

歴史ある校舎を活用し、創発学を進化させていく

――今後、校舎での学びをどのように進化させていきますか?

谷口校長:1号館は国の登録有形文化財であり、本校の卒業生である建築家の今井兼次(1895年〜1987年)が設計しました。今井兼次はスペインのサクラダファミリアで有名なアントニ・ガウディを日本で初めて紹介した研究者であり、自身も「日本二十六聖人記念館」(長崎)などガウディの手法を取り入れた建築物を設計しています。

1号館には校祖・杉浦重剛(しげたけ)の揮毫を活かした建学の精神「壁面訓」があります。改修後も、これを残しながら日本学園の歴史を継承していきたいと思います。

明治の大教育者であった杉浦重剛先生が掲げた、建学の精神が記された「壁面訓」

谷口校長:創発学では「理数教育」とのハイブリッド化を図っていますが、1号館はその教育にも活用されています。

2024年には明治大学建築学科の大学生・大学院生と本校の中学生がコラボして、1号館を3Dスキャンしました。その結果を和泉キャンパスのラーニングスクエアでプレゼンをしました。また、2025年には今井兼次の弟子である建築家、池原義郎が設計した体育館を3Dスキャンし、昨年同様、明治大学の建築学科の大学生・大学院生と本校の中学生が協働して、生田キャンパスのセンターフォレストで発表しました。

こういった明治大学とのコラボによる創発学のプログラムが実現したことで、改修前の校舎の姿はデータとしてデジタル空間に残すことができ、これからも3D空間でバーチャル体験できるのです。

本校には140年の歴史があり、その自由な校風から各界で活躍する偉人や著名人を輩出してきました。その伝統や歴史は失われることはありません。明大世田谷に学校名は変わりますが、建学の理念、歴史と伝統、そして創発学を大切にしながら、生徒たちの人間力を育む教育をアップデートしていきたいですね。そして、将来の夢を実現すべく、「前へ」踏み出せる力を育みたいと思います。

インタビューにご協力いただいた谷口校長先生、ありがとうございました!

まとめ

校舎は生徒たちが長い時間を過ごす空間です。集中して学び、リラックスして、友だちと語り合い、新たな関心に出会う。そんなたくさんの場面が入り込む余地のある多様な空間こそが生徒たちの可能性を引き出すと、日本学園様は教えてくれます。

大人たちはついつい目の前の結果や効率を求めがちです。でも、学校で時間をかけて見つけた生徒たちの「得意」は、谷口校長の言う「伏流水」のように、いつかきっと花開くでしょう。

日本学園の「創発学」は、明治大学との共創によってさらに発展し、新たな学びを生み出そうとしています。その教育現場では、生徒や学生たちのライフスタイルに寄り添った工夫や空間づくりを取り入れた新校舎が大きな役割を果たしているのです。

〈インタビュー・撮影協力〉
明治大学付属世田谷中学校・高等学校(現 日本学園中学校・高等学校 2026年4月校名変更予定)
所在地:東京都世田谷区松原2-7-34
公式HP:明治大学付属世田谷中学校・高等学校


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