
神田外語グループと福島県との包括連携協定のもと始動した震災復興発信プロジェクト。神田外語大学の学生たちは、東日本大震災・原発事故の被災地を訪れ、現地でのリアルな体験をもとに「震災復興ビール」づくりに挑戦します。「実践的な教養」を育むイノベーション・ストーリーを取材しました。
目次
- 訪れる前のイメージを払拭した福島での2日間
- 「心の復興」を助けてくれる学生たちの発信
- 多くの人に福島を知ってもらうために、ビールの「味」についても真剣に議論する
- 海外大学へプレゼンを行い、福島の今を伝えたい
- プロジェクトで変化した学生たちの意識
- 『実践的な教養』というイノベーションを目指して
- まとめ
訪れる前のイメージを払拭した福島での2日間
2025年8月25日・26日、神田外語大学柴田ゼミの学生たちは福島県の浜通り地域でフィールドワークをしました。現地の方々と交流しながら、震災と原発事故の史実、復興の現状、新たな産業や特産品生産の様子など、「福島の過去・現在・未来」を取材したのです。

参加した学生の一人、関口椋久さんはこの企画を知った時、「正直、興味はありませんでしたが、何かには関わってみたいと思って参加しました」と当時の気持ちを正直に語ってくれました。しかし、現地で過ごした2日間で関口椋久さんの中で変化が起きました。
「現地で最初に感じたのは、圧倒的に人の数が少ないし、コンビニも全然ないこと。どんどん違和感を覚え始めて、福島がいかに深刻な問題を抱えているかを感じました。取材を通じて知ったのは、未来に向けて進んでいる具体的な取り組みでした。自分の中にあった『被災の地、福島』というイメージは、取材が終わる頃には『挑戦の地、福島』に変わっていました」

さまざまな思いを福島の現場で得た学生たちは、千葉・幕張の神田外語大学に戻り、取材した内容に基づいて震災復興新聞の制作作業を進めていきました。
「心の復興」を助けてくれる学生たちの発信
新聞制作の一方で、クラフトビールの企画も進められました。福島の食材として選ばれたのは双葉郡南部に位置する広野町のバナナ、愛称「綺麗」でした。バナナといえば熱帯の果物というイメージがありますが、生産する広野町振興公社では寒冷地でバナナづくりに挑戦することを復興のシンボルと位置付けています。
株式会社広野町振興公社代表取締役の中津弘文さんは、学生参加による今回のクラフトビールづくりの機会を「本当にありがたい」と語り、こう続けます。
「今、福島に必要なのは『心の復興』です。震災と原発災害で故郷を追われ、今なお町外で避難生活をされている方もいます。ふるさとへの愛着、誇り、希望が見えない。比較的、早期に生活が回復した広野町でさえ、心の復興はまだ十分でありません。
学生たちが広野町のバナナに注目してくれたことの意義は大きいです。まず、私たち公社や行政にはできない情報発信ができる。そして、その情報が広野町の住民に届くことで、故郷への誇りが生まれるはずです」

多くの人に福島を知ってもらうために、ビールの「味」についても真剣に議論する
どんな味のビールにすべきか――ゼミでの検討はもちろん、ビールを製造する大鵬との議論も行われました。ビールの醸造責任者である北川文也さんはビールづくりの現場を訪れた学生たちの行動に驚いたといいます。
「正直、ビールの製法について聞かれるぐらいかなと思っていました。でも、製法の説明が終わると、学生たちが自主的にグループ分けをして、味の方向性について議論を始めたのです。それも、ビールが『好きな人』と『好きでない人』など、メンバーを変えて、さまざまな視点から議論しているのです。私へも「こういうことはできますか?」「こんなことはできませんか?」といった質問がバンバン飛んで来る。不安に思うどころか、こちらも強い気持ちで臨まないといけないと背筋が伸びました」

学生たちの議論が白熱した理由について、参加した大山豪太さんはこう説明します。
「自分たちは福島に行っていたので、現地の人々の思いにも触れていました。福島を応援したいと思う人たちに向けてビールを作りたい。そんな背景もあったので、ビールの味を決めるのには時間がかかりましたね」

学生たちの議論は「どの程度の飲みやすさにするか」が争点でした。
ビールづくりのリーダーを務める関口舜矢さんは「『甘さを抑えた、ちょっと大人な味』なのか。『誰でも飲みやすいような甘みを感じられてアルコールも抑えたような味』なのか。そこで分かれました。ただ、ビールの本来の目的はたくさんの方に飲んでいただいて、福島を知ってもらうことなので、甘さも残した飲みやすい味にしました」と説明する。

海外大学へプレゼンを行い、福島の今を伝えたい
さまざまな出会いと思いが育まれ、2025年11月19日、HANEDA SKY BREWINGにて、震災復興ビールの仕込み式が開催されました。「福島の実りと願いから生まれた 綺麗ALE」と名付けられ、ラベルには英語で「Rise with “Fukushima”」(福島とともに立ちあがろう)というメッセージが添えられました。広野町から見える海の朝陽を希望の光に見立てたラベルも学生たちの発案から生まれました。


仕込まれたビールは、2026年初めに完成する予定です。1月下旬には完成した英日版の震災復興新聞と綺麗ALEを携えて内堀雅雄福島県知事を訪問し、謹呈と意見交換が行われる予定です。
また、学生たちは2月上旬にインドネシアの大学生に福島の今を伝えるオンラインプレゼンテーションを予定しています。
プレゼンのリーダーを務める大山豪太さんは「海外の人々に福島の現状について理解してもらいたい。その第一歩がインドネシアへのプレゼンです。日々、外国語大学で学んでいる英語力を生かして、がんばりたい」と意気込みます。

福島県も大学生による海外への情報発信には期待を寄せています。福島県東京事務所所長の國分健児さんは「震災当時、まだ幼かった学生たちが、福島の現状を見て、感じたことを同じ年代の人たちに話していただくことが、震災から15年近くが経ち風化が課題となる中、復興にとっては大きなプラスになります。そして、若者の外国語による発信力はなによりも高い。非常に力強いパートナーとして期待しています」と語ります。

プロジェクトで変化した学生たちの意識
震災復興発信プロジェクトはまだ途上にありますが、これまでにどのような教育的な成果があったのでしょうか。柴田教授はこう答えてくれました。
「学生たちにとって福島はとても遠い存在で、風評被害とかネガティブなニュースばかり聞いていたと思います。それが、現地に行って肌で感じて、『こんなに復興しているんだ』ということを強く感じて、そこから『これは伝えなきゃ』『学生の視点で変えていかなきゃ』と意気に感じてくれた。復興に向かって頑張っている人たちと交流して、自分たちも頑張らなきゃと思えた。そこは大きかったですね」
ビールづくりの議論で自分の意見を冷静に見つめることができた学生の関口椋久さんからはこんな答えが返ってきました。
「物事を深いところまで理解することの大切さを学びました。ざっくりではなく、福島で起きたこと、そして今起きていることをきちんと理解することで、初めて人に伝える準備ができるし、それをしなければならない。その準備ができているからこそ、伝える機会があったときに、自分の持っている情報をすべて伝えられるのだと思いました」
『実践的な教養』というイノベーションを目指して
学生たちに大きな変化をもたらした震災復興発信プロジェクト。その教育的な意義について神田外語グループの佐野元泰理事長はこう語ります。
「すべて情報がスマホから取れる時代、学生が学ぶべきは『実践的な教養』だと思います。キャンパスの外で人と関わり、真剣勝負する経験から得られる知識と教養こそが、これからのリーダーを育む上で必要な学びです。
福島の復興の現場で見て、聞いて、感じる体験。例えば、津波で瓦礫が散乱し、海水に浸かった田んぼが美しい田園風景としてよみがえっている。そこには人々の必死の努力がある。その感動は、文章でも、映像でも伝えられません。それを目の当たりにして心を動かした学生たちが、自分の言葉で力強い説得力を持って伝える。日本語で、そして日々学んでいる英語で。この力はきっと将来、海外と仕事をしていくうえ役に立つはずです。
福島県はさまざまな課題を抱えていますが、その課題こそが学生の本気や関心を引き出すことは事実です。そして、学生の取り組みは、福島の人々にとっては小さな希望の光となる。だからこそ、これからも福島県と一緒にさまざまな取り組みをしていきたい。今回はひとつのゼミの取り組みでしたが、今後、『実践的な教養』を学ぶ機会をどのように大学全体に広げていくか。それこそが、神田外語グループが挑戦すべきイノベーションです」

まとめ
今回の取り組みは、大学生にとって「社会」というフィールドもまたイノベーションの種が生まれる場であることを示しています。学外で社会人と真剣勝負をして、その成果をキャンパスに持ち帰り、議論と研究を深めることで学生一人ひとりがイノベーションの種を育てていくのです。
学び場づくりのトレンドとされる「イノベーション・コモンズ」は、そんな学外での学びをキャンパスで最大化する役割も求められていると言えるでしょう。
〈インタビュー・撮影協力〉
神田外語グループ(学校法人佐野学園)
所在地:東京都千代田区内神田2-13-13
公式HP :神田外語グループ 公式サイト
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